• 瀧口 範子

労働規制の強化で危機に、在宅介護スタートアップの苦悩 米シリコンバレー

需要に応じて一般人が労務を供給する「Uber」や「TaskRabbit」などのサービスは、「ギグエコノミー」や「オンデマンドエコノミー」などと呼ばれる。これらはサービスの利用者と提供者をダイレクトに結びつけ、両者にとって恩恵になるはずだった。

ところがこの図式が成り立たず、ビジネスモデルを転換せざるを得なくなったスタートアップがある。

2013年にロサンゼルスで起業した「HomeHero(ホームヒーロー)」で、高齢者や自宅療養する病人のための介護サービスを提供していた。日本のような介護保険制度がないアメリカでは、手ごろな値段で介護をしてくれる人材を探すのは難しい。

 同社は2016年2月までに2300万ドルの投資をベンチャーキャピタルから集めていた。同社の方針転換は、ギグエコノミーのビジネスモデルを採用する企業全てにとって教訓となる話だ。

 同社の共同創業者であるカイル・ヒル氏は、98歳になる祖母の心配をする父母の様子から、この領域に大きな需要があると感じて起業したという。彼らは介護人をオンデマンドで探せるHomeHeroのシステムを開発し、ロサンゼルス、サンディエゴ、サンフランシスコ地域などでサービスを展開し始めた。

掃除や洗濯、買い物などのサービスを提供

 同社が提供するのは非医療サービスで、掃除や洗濯、買い物、身体サポートなどだ。利用者にとっては通常の介護サービスよりも30~40%ほど料金が安くなる一方、サービス提供者にとっては通常の介護派遣よりも25%ほど報酬が高くなるという仕組みだった。どちらにとっても満足できるプラットフォームを作り上げることに注力したという。

 HomeHeroはこうしたプラットフォームを実現するために、サービス提供者の経歴やスキルと、利用者の要望をマッチングする独自のアルゴリズムを開発し、サービス提供者を評価する変数を公開するなどして、透明性の確保にも努めていた。変数とは、距離や時間厳守、評価、スキル、言語、資格の有無などである。

 HomeHeroは2015年夏までに1200人の介護サービス提供者を抱えるまでに成長していた。サービス提供者は全て、独立事業者という位置付けだった。ところが、労働法による規制が突然壁として現れた。米国労働省が「公平労働標準法」を在宅介護サービス提供者に適用することを決めたのだ。

 この規制によって、全ての在宅介護人は「W-2」というカテゴリーの雇用従業員となることが求められ、雇用者は最低賃金や残業代、健康保険などを提供しなければならなくなった。

同社CEOとなったヒル氏は、この規制によってHomeHeroがどれほど苦悩したかをオンラインメディアの『Medium』に詳しく書いている。それによると、独立事業者からW-2雇用者へ変更することによって、1時間あたりの利用料金が19ドルから22ドルへと高くなった一方で、サービス提供者の採用コストは10倍に膨らみ、元が取れなくなったという。

 同時に、全米レベルで最低賃金を上げようという運動が起こり、Uberなどを相手取ってドライバーらが集団訴訟を起こすなどの動きも激化して、ギグエコノミーのモデルでビジネスを継続していくことが困難になったとのことだ。

 HomeHeroは2017年2月に介護サービスの提供を停止した。そして現在は「Harvey」という新しい社名で統合医療に関するアドバイスをするサービス会社に転換している。

従業員として雇用するオンデマンドサービスも登場

 現在、ギグエコノミーのビジネスモデルに対する批判が強まる中で、サービス提供者を独立事業者として扱うのではなく従業員として雇用し、いわば人材派遣のようなビジネスモデルでオンデマンドのサービスを提供しようという動きが出てきている。HomeHeroの競合である「Honor」や、企業向けのオフィス関連の雑用をこなす「Managed by Q」などがそうした新しいビジネスモデルを採用する。

 ギグエコノミーに対する揺り戻しが、米国で出てきていると言えそうだ。

日経テクノロジー 2017/07/07 瀧口 範子(たきぐち のりこ)

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