「要介護度」を減らせ! AIによる自立支援の挑戦

October 25, 2017

日本の介護保険制度によるケアプランの膨大なデータは、「宝の山」だった! スタンフォード大学の天才研究者と組み、AIを使って介護のパラダイムシフトを起こす。

 

スタンフォード大学 

 

2015年5月、訪問介護サービス大手のセントケア・ホールディングで介護ロボット、AI、認知症ケアの3分野で新規事業開発を担当していた岡本茂雄は、シリコンバレーを訪れていた。医療保険制度改革であるオバマケアの成否を有識者と議論するため、また人工知能(AI)がアメリカのヘルスケア市場においてどのように活用されているのかを確認するためだ。

介護にAIを活用できないか考えていた岡本は、会議で出会った24歳下のAI研究者、スタンフォード大学のグイド・プジオル博士に、ある考えを提案する。

「日本は公的介護保険制度が充実しており、介護サービスや機材のレンタルに対して、要介護者の身体状態に応じて7段階で上限金額の異なる保険給付が国から支給される。国はこの要介護度認定のために、『自分で食事ができるか』『自分で歩けるか』など74項目に及ぶ詳細な身体状態の検査を行っている。この膨大なデータを、AIを使ってより良い介護プランの作成に活用できないだろうか」と。

グイド博士は目を見開いた。そんな介護システムはアメリカにはないし、聞いたこともなかったからだ。「日本の要介護者約600万人×74項目×2000年の制度開始から15年分」ものビッグデータ。「素晴らしい。イノベーションが起こせるよ」と博士は言った

「博士には、さぞ宝の山に見えたのでしょうね」と岡本は笑う。

さらに博士は続けた。「オカモトさん、日本の企業の中にいては実現できない。会社をつくってください。私もこのシステム開発のための会社をつくります」。それから日本企業の部長とスタンフォード大学の博士は、日米で準備を始めた。

このとき岡本の頭の中には、03年より全国に先駆けて介護予防を実施した埼玉県和光市の取り組みがあった。同市では、市内すべての包括支援センターのスタッフと、サービスを提供する看護師や理学療法士、ヘルパーなどが集まり、新たに認定された要支援者・要介護者の介護計画を検討する「コミュニティケア会議」を毎月2回、開いている。

その方針は明確だ。要介護者や家族に「楽をさせる」ためのプログラムではなく、「自立させる」ため、回復に向けたリハビリテーション中心のプログラムを組む。結果は顕著で、15年度の要介護認定率は全国平均が18.2%のところ、和光市は9.4%へと激減した。要介護2から1、要支援1から介護保険卒業へと、要介護度が減っていく人がたくさんいる。誰もが漠然と、「要介護度は加齢により悪化していくもの」だと思っていたなかで、この成果は衝撃的だった。

「高齢者が要介護者になる2大原因は、骨折と認知症です。これはどちらも、適切なプログラムを組めば、回復も不可能ではない。結果がついてくると、患者や家族、介護にかかわる専門家みんなの意識が変わるんです。『とにかく家族の負担を軽減すべきだ』という一辺倒な思いから、『1年リハビリで頑張れば社会参加できるかもしれない』というように。ただ、そのような綿密な会議がどこの自治体でもできるわけではない。だからこそ、そのノウハウやデータをAIに学ばせて提供できないかと考えたのです」

 

政府は16年11月、ビッグデータやAIを活用し、「予防・健康管理」と「自立支援」に軸足を置いた新しい医療・介護システムを20年までに本格稼働させる方針を明らかにした。

まさに時代の要請だった。岡本は、政府系ファンドの産業革新機構を筆頭に、セントケア・ホールディング、エンジニアリング会社の日揮、デイサービス大手のツクイ、社会福祉法人こうほうえんなどから総額15億円を調達。満を持してというタイミングで今年3月、AIによる自立促進・重度化予防のケアプランを提供するシーディーアイをスタートさせた。

グイド博士も米国でActivity Recognition社を設立。現在、日本の介護保険データとアメリカの先駆的なAIを合体させた、岡本曰く「人類に貢献するソリューション」の開発を進めている。7月には、愛知県豊橋市と協定を結んだ。同市で8年分蓄積した介護サービス利用者のデータ約10万件をAIが学習し、10月から市内約50〜100人の高齢者を対象にケアプランを作成するという。本格的なサービス開始は18年4月を予定している。

現状、日本の介護計画は、主にケアマネジャーが要介護者のADL(日常生活動作)、健康状態や要望、介護を担う家族の生活状況などを調べて作成する。1人のケアプランの策定におよそ1.5時間かかるとされるが、現在、要介護者の急増によりケアマネジャーの負担が増加し、ケアプランの質にもばらつきがあると指摘されている。そしてそれは、「介護保険の上限額いっぱいに使い」「家族の介助負担を少しでも軽減する」ことに主眼を置いたものになりがちだという。

だが必要以上の介護は、要介護者の行動量を減らし、筋力・気力を衰えさせる結果につながりかねない。本来ケアプランは、要介護者が日常生活を自立してできることを目指すもの。適切なプランにより、要介護度が減って、介護が必要なくなるという方向にも導けるはずだ。介助せずに自分でやらせることはリハビリにつながる。筋力も運動機能も行動力も認知症も回復する。

シーディーアイが開発するシステムは、要介護度認定の際の74項目の調査結果をインプットすれば、AIにより、要介護者の「自立支援」を目標としたケアプランの原案が、一瞬で策定される仕組みだ。たとえば、膝が変形して歩けない73歳の要介護2の女性について、「デイサービスの利用を週3回から週1回に減らす一方、新たに訪問リハビリを月に8回、訪問入浴を適宜利用する」というケアプランが提示される。その原案をもとにケアマネジャーが、本人の希望などさまざまな要素を加味して最適なプランに仕上げていく。

「これまでは、個々の患者にどのような介護が必要かというのはケアマネジャーによる暗黙知に頼っていた。そのデータをAIに学ばせれば、一種の職人芸のようだったケアプランが体系化され、日本のみならず世界で活用ができる。ケアマネジャーの負担軽減にもつながるし、彼らのプロフェッショナルがより強化されると思います」

さらに今後は、「どんなケアプランの実行に対して74項目の数値がどう変化したか」という時系列のデータを取り、AIの深層学習が可能になる。より効果の高いプラン作成が可能になるだろう。要介護者の自立支援プランを作成する世界初のAI、それは、要介護者を健康に引き戻す知能なのだ。

岡本茂雄◎1958年生まれ。東京大学医学部保健学科卒業後、クラレ、三菱総合研究所、明治安田生命保険相互会社などを経て、2007年セントケア・ホールディングに入社し、執行役員に。17年3月、シーディーアイを設立。

 

Forbes

 

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